約2年9か月ぶりにメジャーアップデートされた「Vine Linux 5」レビュー

 今回紹介するVine Linuxは、日本人にとって真に使いやすいLinux環境を目指して開発されている、国産のLinuxディストリビューションである。Project Vineのメンバーを中心に、当初はRed Hat Linuxをベースに開発がスタートしたが、現在では独自に開発が進められている。日本語環境の使いやすさと安定性から、個人用ユーザのデスクトップOSや教育用Linuxとして定評がある。

 そのVine Linuxの最新版「Vine Linux 5」が2009年8月24日にリリースされた(図1)。前回のメジャーリリースであるVine Linux 4.0がリリースされたのは2006年11月22日ということで、約2年9か月ぶりのメジャーリリースとなる。

 Vine Linux 5は、カーネルに2.6.27を採用し、対応アーキテクチャにはi386およびPowerPCに加えて、新たにx86_64が加わった(現時点でPowerPC用は準備中)。

図1 Vine Linux 5のデスクトップ画面
図1 Vine Linux 5のデスクトップ画面

USB/DVDメモリ用のインストールイメージ

Vine Linuxは、前バージョンまではCD1枚に収まるISOイメージとして提供されていた。バージョン5でもこれは引き継がれており、基本インストールCDイメージのサイズは683MBとなっている。さらに、Vine Linux 5では収録パッケージを追加したDVD/USBメモリ用ISOイメージ(1015MB)も新たに提供されている。

 これらはUSBメモリからでも起動可能なハイブリッドイメージとなっており、たとえばはi386用DVD/USB ISOイメージVine50-i386-CD.isoを/dev/sdbとして認識されているUSBメモリに書き込む場合、Linux上で次のように実行することでインストール用のUSBメモリを作成できる。

# cat Vine50-i386-CD.iso > /dev/sdb

 これにより、CD/DVDドライブを持たないNetBookなどへのインストールも可能になる。

 インストーラには、FedoraなどでもおなじみのAnacondaが採用されている。使い勝手の良いグラフィックモードのインストーラで、簡単にインストールが行える(図2~8)。

図2 Vine Linux 5のインストーラ
図2 Vine Linux 5のインストーラ
図3 インストールの種類の選択
図3 インストールの種類の選択
図4 ネットワークの設定
図4 ネットワークの設定
図5 ファイアーウォールの設定
図5 ファイアーウォールの設定
図6 アカウントの設定
図6 アカウントの設定
図7 美しい起動画面
図7 美しい起動画面
図8 ログイン画面
図8 ログイン画面

ルック&フィールが改善されたデスクトップ環境

 Vine Linuxの標準デスクトップ環境にはGNOME 2.26.3が採用されている。桜のバックグラウンドが印象的な美しいテーマが採用されており、メニューやダイアログボックスは丁寧に日本語化されている(図9)。標準の日本語入力メソッドはSCIM、かな漢字変換エンジンはAnthyだ。WebブラウザはFirefoxコミュニティエディション3.5.2、メーラにはSylpheed2.7.1がインストールされる。なお、OpenOffice.orgは標準ではインストールされないが、Synapticパッケージマネージャなどで後からインストール可能だ。

図9 Vine Linux 5のデスクトップ
図9 Vine Linux 5のデスクトップ

 デフォルトのフォントも改善され、ゴシック体としてはProject Vineの鈴木大輔氏を中心に作成されているVLゴシックの改良版が、明朝体には新たにIPA明朝を採用している。

 なお、注意すべき変更点として、標準の日本語ロケールがEUC-JPからUTF-8に変更になった点がある。前バージョンからアップデートを行った場合、日本語のファイル名についてはconvmvコマンドなどを使用して変更する必要がある。

パッケージ管理システムはapt

 Vine LinuxはRed Hat Linuxから派生したディストリビューションということで、パッケージ形式はRPMである。ただし、パッケージ管理システムはFedoraなどで採用されているyumではなく、UbuntuなどDebian系で主流のaptを採用している。

 初期状態のapt-lineには、メインのリポジトリであるmainと更新パッケージ用のupdatesの他、「plus」(Vine Plus)と「nonfree」が有効化されている。plusはインストールメディアに入りきらなかった付加的なパッケージ集で、たとえばKDEやXFCE4などのGNOME以外のデスクトップ環境や、OpenOffice.org、WineやVirtualBoxなどの仮想化環境などが用意されている。一方のnonfreeは文字通りフリーでないパッケージで、Sun MicrosystemsのJavaや、Flashプラグインのインストール補助用パッケージ、後述するラインセンスの関連でソースを収録できないソフトウェアのビルド支援用パッケージなどが登録されている。

GUIのパッケージ管理ツール

 GUIのパッケージ管理ツールとしては、aptのフロントエンドであるSynapticパッケージマネージャが用意されている(図10)。

図10 Synapticパッケージマネージャ
図10 Synapticパッケージマネージャ

 また、よりシンプルなパッケージ管理ツールとして、おすすめアプリケーションを簡単にインストールできる「アプリケーションの追加と削除」(vine-app-install)も利用可能だ(図11)。

図11 より簡単にアプリケーションを追加できる「アプリケーションの追加と削除」
図11 より簡単にアプリケーションを追加できる「アプリケーションの追加と削除」

self-bulidパッケージの自動インストール

 Vine Linuxでは、オープンソースであっても、マルチメディア用のコーデックなどライセンス上問題となる可能性があるソフトウェアについてはパッケージとして収録していない。ただし、ユーザーの利便性を考慮し、それらを簡単にインストールできるようにするためのツールが用意されている。これは「self-buildパッケージ」と呼ばれており、nonfreeリポジトリに収録されている。これを利用することで、対象とするソフトウェアのソースコードの取得からコンパイル、パッケージ化、インストールまでの流れを自動化できる。

 たとえば、著作権保護がかけられているDVDビデオを再生できるマルチメディアプレーヤー「MPlayer」をインストールするには、Synapticパッケージマネージャなどで「self-build-mplayer」をインストールすればよい(図12、13)。

図12 self-build-mplayerをインストールする例
図12 self-build-mplayerをインストールする例
図13 MPlayerでDVDビデオを再生
図13 MPlayerでDVDビデオを再生

 このとき、依存する通常のパッケージおよび依存するself-buildパッケージ(たとえばself-buld-mplayer-codecs)についても自動でインストールされる。