FSF、社会活動家と接触する
Brown氏によると、このメッセージは、社会活動グループにアピールするように計算された、シンプルなものになる予定だ。「フリーソフトウェアは、日々の生活がコンピュータへの依存を強めるに伴い、フリースピーチ(言論の自由)に関わる問題となっています」と、彼は指摘する。目標は、活動家グループが持つ強い倫理感に訴え、フリーソフトウェアを支持するポリシーの採用を働きかけることである。
「こういったグループが認識し、取り組んでいる問題の本質は共通します。あるグループは児童の貧困問題に取り組み、あるグループはリサイクルに取り組んでいるかもしれませんが、ある団体に所属するメンバーを別の団体とそっくり入れ替えても問題は起こらないでしょう。社会活動グループ内のネットワーキングに関する私の経験から言うと、1つの成功はあっと言う間にたくさんの成功へとつながります。それぐらい、このコミュニティでは交流が盛んなのです」(同氏)。言い換えるならこういうことだ。FSFは、フリーソフトウェアのプロモーション活動が、すぐに活動家コミュニティの共通の活動項目になることを期待している。
キャンペーンの発端
このキャンペーンの生みの親は、数か月前にBrown氏がBBCの友人にかけた一本の電話だった。”発想からして欠陥”キャンペーンを説明するBrown氏に、友人は戸惑いを隠せなかったという。「彼はこんな意味のことを言いましたね。”そりゃ大変な大ネタだ。ディスクにも関係がある、ダウンロードにも関係がある、テレビにも関係がある、iPodにも関係がある。そんなもの、どうやって記事にまとめりゃいいんだ?”」
社会問題や政治問題を深く追求することで知られる雑誌に連絡を取ったときも、彼は意欲をくじかれる反応に出会った。この雑誌は、非営利の協同組合によって運営され、世界の貧困問題や国際通貨基金などの複雑なテーマを定期的に調査、分析している。「明らかに居心地が悪そうな様子でしたね。ソフトウェアのことをよく知らないからです」 ─ 編集者と話したときのことを彼はそう振り返る。FSFがいつも相手にしているフリーソフトウェアコミュニティのメンバーと比べると、「年齢層はやや高く、テクノロジに恐怖感を持ってました。[フリーソフトウェアは]調査を実施し、見解をまとめるのが大変なテーマだと結論するのが、この人たちの典型的な反応です。ですから、敬遠するのです」
「The Nation」や「Mother Jones」などの他の社会活動誌のバックナンバーをざっと見たBrown氏は、状況は他でも同じようなものだと知った。この手の雑誌がフリーソフトウェアを取り上げたことは、皆無に等しいのである。「取り上げたことがあったとしても、決まって偏向していて、私たちが間違った論点だと考えるような取り上げ方なのです。ギークっぽさばかりが注目されます。技術屋さんはお利口だという切り口です」
Brown氏は、問題はメッセージだと結論した。「リサイクルについて語るとき、廃棄物をこの場所に持っていって、高温で熱してどうの、などと話す人はいませんね。そんなことを知る必要はないですから。それと同じで、フリーソフトウェアの倫理性について判断を下すために、GNU/Linuxのアーキテクチャを知る必要はありません。倫理性はメッセージです。ソフトウェアが動くしくみとは無関係です」
メッセージを立案する
キャンペーンの開始は9月中を予定しているが、詳細はまだ決まっていない。現在、FSFはDRMテクノロジなどの各種のフリーソフトウェア問題を語るための用語を標準化している。また、GNU/Linuxユーザグループのメンバーに参加を働きかけるために、パッケージを配布することも準備中だ。FSFは、このような人々が「フリーソフトウェアの争点に関する活動家」(同氏)になることを期待している。
また、「連絡すべきと思うすべての雑誌や組織に書面を送り、実際に直接のアピールを行って、それらの組織が自身のポリシーに注目し、フリーソフトウェアとソフトウェア関連の問題について書くように働きかける予定です」(同氏)。このキャンペーンを支援する意思のある人や、ターゲットとすべき雑誌や組織を知る人は、FSFまで連絡して欲しいということだ。
このキャンペーンに含まれないメッセージとして、ソフトウェア市場独占の是非、フリーソフトウェアの価格、ソースコードにアクセスできることがソフトウェアの品質を高めるとするオープンソースの見解などがあります。「市場独占について論じるときに厄介なのは、プロプライエタリの企業間に競争があれば、私たちは納得すると思われてしまうことです。しかし、違いますね。それで納得できるわけではありません」
同様に、「もしMicrosoftが自社のオペレーティングシステムを無償にし、世に言う実質的な権利をすべて提供すると今日発表したら、それはオープンソースにとって良いことですが、自由(freedom)にとっては良いことではありません。これはフリーソフトウェアの死を意味します。自由を守ることを学んだ人は多くないからです。フリーソフトウェアを守れる程度まで、フリーソフトウェアの問題を社会の問題としてとらえる人を増やせるかどうか、そこが生死の分かれ目です」(同氏)
このような姿勢を打ち出すことで、テクノロジと無縁の人々の支援を得やすくなることを認める一方で、FSFの代表としてBrown氏はこうも付け加えた。「短期間の勝利を目指しているのではありません。そのような勝利は、間違った問題に人々を一斉に向かわせてしまう要因となります。私たちは、より大きな問題に常に専念してきました。そうすれば、フリーソフトウェアを選ぶ人は、正しい理由があって選ぶことになるでしょう。フリーソフトウェアは、長い目で見ていかなければならないものです」
Bruce Byfieldは、研修コースの開発者でありインストラクター。コンピュータ・ジャーナリストでもあり、NewsForge、Linux.com、IT Manager’s Journalの常連。
NewsForge.com 原文